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イメージ力を鍛えると国語の偏差値は飛躍的に上がる!

第4回 物語/選択式問題について

 

 中学入試国語では、学校によっても差はありますが、一般的に問題の大部分を選択式問題が占めています。つまり、選択式問題を制覇すればほぼ国語の問題をマスターしたともいえるのです。ただ、問われる範囲が非常に広く、理由や心情を問うものからかなり複雑なものまで多岐に渡ります。さらに、複数の選択肢の中で明らかに誤りというものは少なく、正誤の判別を迷わせる問題が常識となっています。したがって、選択式独特の思考回路を会得しておく必要があるのです。
 次の文章をリアルなイメージを意識しつつ、2分以内くらいで読んでみましょう。なお、出典は吉行淳之介『童謡』からです。

 みどり色のガウンを、少年は着ていた。長さはくるぶし近くまであった。きっかり前を合わせると、細い棒のようになった体の形があらわになりすぎる。前をゆるやかに合わせているので、少年の格好は、だぶだぶのみどり色のマントを羽織っているようにみえた。
 その日、少年は病院の庭を散歩していた。いや、散歩と言う気楽さは、すくない。冒険旅行といった方がよいくらいだ。歩くこと自体が、冒険なのである。
 灰白色の、窓のない建物の角を曲がると、そこは人目の届かない場所になる。がらんとしたコンクリート地面に、薄(うす)ら陽(び)が水たまりのように漂(ただよ)っているだけだ。
 少年は立ち止まった。あたりを見まわした。勢いよく首をまわすと、体が平衡(へいこう)を失いそうなので、そろりそろりと首を左右にまわす。そして、人影(かげ)のないのを見定めた。みどり色のガウンのポケットに、手を入れた。尖(とが)って飛び出した腰骨に、指が当たった。ポケットの中から、キャラメルの箱を抜(ぬ)き出した。ふたを開け、キャラメルの粒(つぶ)を取り出そうとして、少年は顔をわざと大きく崩し、笑い顔を作った。
 少年は、酒でも飲んでみたい年齢(れい)である。それが、人目を避(さ)けて、キャラメルの粒をつまみ出そうとしている。そういう自分が面映(おもはゆ)い。いや、ベッドに寝そべってキャラメルを頬張(ほおば)るのは、恥(は)ずかしいことではない。あやうい足取りで歩いていた自分が、立ち止まって、みどり色のガウンのポケットからキャラメルの箱を取り出した、そのことが子供じみて面映いのだ。さりとて、少年の生理はいまキャラメルを欲求している。そこで、少年は自嘲(じちょう)の笑いを洩(も)らした。誰(だれ)も見ていないと思うので、ひどく誇張(こちょう)した笑いを作ってみた。
 キャラメルの粒は、箱の底の方にすこし残っているだけだった。少年は、指先を深く箱の中にもぐり込ませ、箱の底を探(さぐ)った。指先を鉤型(かぎがた)に曲げ、その指先にキャラメルの粒を引っかけ上げようとする。その指先の動きが、少年の体全身に伝わってゆき、体がぐらりと傾(かたむ)く。
  「おっと」
 口に出してそう言い、少年は手の甲をぐうっと上に反らし、均衡を取り戻そうとした。その動作は平素のときよりもずっと誇張されたものだった。ピエロの格好をして、わざわざあやうい足取りで綱を渡ってみせる芸人の姿が、少年の脳裏に浮かび上がった。
 少年の体は、いったん、よじれたようになり、元の位置に戻った。体がよじれたとき、視界の端に人影を見たようにおもった。
 首をまわした少年の眼に、少女の姿が映った。少女は、灰白色の建物のそばに立って、少年の方をみていた。少年と眼が合ったとき、1.少女の顔にとまどった、おびえに似た色が走った。
 「あ」
 少年はおもわず声を出した。
 全部見られたな、とおもった。少女には見覚えがある、という言い方では足りない。ときおり、ぎごちなく言葉を交(か)わしたこともあった。
  「お見舞いにきたの」
 このとき一層ぎごちなく、少女は言った。そして、少女の友人の名を告げ、見舞いに行くようにすすめられた、と言った。
  「でも、そんなにお悪いとは、おもわなかったの」
 少女は目を伏せ、弁解するように言った。
  「悪い・・・・・・。でも、あいつが来たときは、まだ歩けなかったのですよ」
 あいつ、とは友人のことである。
  「あいつ、そう言わなかった」
  「ええ」
 少女は、それだけ言って、口をつぐんだ。少年は、あらためて友人の悪意を感じた。憎んでいたのか、とおもった。この少女を愛していたのか、とおもった。そして、いままではこの少女はたしかに自分に好意を持っていた。そう、いままでは。
 少女は、居たたまれない素振りで、
  「また、来ますわ」
  と言い残し、灰白色の建物の陰(かげ)に消えた。後を追おうとしても、少年は走ることができない。ゆっくりとベッドまでたどりつき、ふとんの中に潜(もぐ)った。ふとんを頭からかぶった。
  そして、暗い中でつぶやいた。
  「ああ、この身はわたしじゃない」
 先日の友人の奇妙に間のびしたフシを思い出して、もう一度、言い直してみた。
 「2.ああ、ああ、この身はわたしじゃない

 いかがでしたか。少年と少女の微妙な表情の動きや、声の震えなどは感じ取れましたでしょうか?では、早速設問にとりかかりましょう。

(問1)
 傍線1.「少女の顔にとまどった、おびえに似た色が走った。」について
 少女がとまどい、おびえたのはなぜですか。最も適当なものを次の中から一つ選び、記号で答えなさい。
 ア、 少年の別人のようにやせた体や危なっかしい歩き方を見てショックを受けたから。
 イ、 少年と眼が合い、眼つきの鋭さに恐怖感をおぼえたから。
 ウ、 少年の病状が、友人から聞いていた以上にひどくて見ていられなかったから。
 エ、 建物の影から見ていたことに気づかれ、気まずかったから。

【解説】
選択肢で明らかに誤りといえるのはイとエです。まず、イは「恐怖感」という表現が傍線部1.の「おびえに似た色」に照らし合わせるとオーバーな表現といえ不適切です。
次にエは 「気まずかった」という部分が傍線部1.の「おびえに似た色」とは明らかに矛盾します。ここで残りはアかウの二つとなります。
よく注意してみると、ウでは「病状を友人から聞いていた」となっていますが本文中にはない記述であり不適切です
確かに本文中で少女が「でも、そんなにお悪いとは、おもわなかったの」とありますが、友人から病状を聞いた事実にまでは触れられていません。したがって、正解はアです。

(問2)
 傍線2.「ああ、ああ、この身はわたしじゃない」の少年の思いとして最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。
 ア、 本当の自分の姿がどのようなものだったかわからなくなってしまい、少女に今の自分がどんな風に見えるのか聞いてみたいと願っている
 イ、 これは本当の自分ではないのだと思い込ませようとする気持ちが強まり、また、少女に見られて、どうしていいかわからず途方にくれている。
 ウ、 友人に裏切られ、少女に嫌われたと思ったので、せめて少女に嫌われないように何とか自分を変えたいとあせり、苦しみもがいている。
 エ、 友人の本当の気持ちに気づいて、これ以上おとしいれられないために、今の自分から早く立ち直り、いつか友人に仕返ししようと憎んでいる。

【解説】
選択肢の文自体が長いときは、文末表現のみから比較判断します。すると、ア「願っている」、イ「途方にくれている」、ウ「苦しみもがいている」、エ「憎んでいる」となり、ア、ウ、エは明らかに不適切であり、正解はイとなります。

【飛躍アドバイス】
選択式の解法の基本は消去法です。誤っている選択肢をいかに早く見つけられるかです。
誤った選択肢の特徴は、1.オーバーな表現であること2.文中の記述にないか矛盾するものだということです。
消去されたあと、選択肢が二つ残ることが多いといえます。
さらに、選択肢の文自体が長いときは、各選択肢の末尾表現のみで比較した方が、違いが明確になり、判断のスピードもアップします。
初めから各選択肢全文を読んでいると、時間もかかり、色んな情報が目に入ってしまい、逆に判断を迷わせる結果となってしまうことが多いので注意しましょう。

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