第5回 物語/段落分けについて
今回は物語の段落分けの問題について学習します。段落分けの問題の中には、乱文整序の問題(バラバラに並んでいる段落を正しい順序に並べかえる)、要旨をまとめさせる問題、全文を内容により段落分けさせる問題がありますが今回は段落分けさせる問題について解説します。
では、まず次の文章(出典:堀辰雄『風立ちぬ』)を眼の前にリアルな映像が広がる要領で読んでみましょう。制限時間は2分くらいです。
A或(あ)る日、やっとのことで郊外にある節子の家までその院長に来て貰(もら)って、最初の診療を受けた後、「なあに大したことはないでしょう。まあ、一・二年山へ来て辛抱なさるんですなあ」と病人達に言い残して忙しそうに帰ってゆく院長を、私は駅まで見送って行った。私は彼から自分にだけでも、もっと正確な彼女の病態を聞かしておいて貰(もら)いたかったのだった。
「しかし、こんなことは病人には言わぬようにしたまえ。父親(フアタア)にはそのうち僕からもよく話そうと思うがね」院長はそんな前置きをしながら、少し気むずかしい顔つきをして節子の容態をかなり細かに私に説明してくれた。
それからそれを黙って聞いていた私の方をじっと見て、「君もひどく顔色が悪いじゃないか。ついでに君の身体(からだ)も診(み)ておいてやるんだったな」と私を気の毒がるように言った。
B駅から私が帰って、再び病室にはいってゆくと、父はサナトリウムへ出かける日取などの打ち合わせを彼女とし出していた。私もその相談に加わり出した。「だが・・・・・・」父はやがて何か用事でも思いついたように、立ち上がりながら、「もうこの位に良くなっているのだから、夏中だけでも行っていたら、よかりそうなものだがね」といかにも不審そうに言って、病室を出ていった。
C二人きりになると、私たちはどちらからともなくふっと黙り合った。それはいかにも春らしい夕暮(ゆうぐれ)であった。私はさっきからなんだか頭痛がしだしているような気がしていたが、それがだんだん苦しくなってきたので、そっと目立たぬように立ち上がると、硝子(がらす)扉の方に近づいて、その一方の扉を半(なか)ば開(あ)け放(はな)ちながら、それに靠(もた)れかかった。
そうしてしばらくそのまま私は、自分が何を考えているのかも分からないくらいにぼんやりして、一面にうっすらと靄(もや)の立ち込めている向こうの植込みのあたりへ「いい匂(におい)がするなあ、何の花のにおいだろう――」と思いながら空虚な目をやっていた。
D「何をしていらっしゃるの?」
私の背後で、病人のすこし嗄(しゃが)れた声がした。それが不意に私をそんな一種の麻痺(まひ)したような状態から覚醒(かくせい)させた。私は彼女の方には背中を向けたまま、いかにも何か他のことでも考えていたような、取ってつけたような調子で、
「お前のことだの、山のことだの、それからそこで僕たちの暮らそうとしている生活のことだのを、考えているのさ・・・・・・」と途切れ途切れに言い出した。が、そんなことを言い続けているうちに、私はなんだか本当にそんなことを今しがたまで考えていたような気がしてきた。そうだ、それから私はこんなことも考えていたようだ――。
E「向こうへいったら、本当にいろいろなことが起こるだろうなあ。・・・・・・しかし人生というものは、お前がいつもそうしているように、何もかもそれに任せ切って置いた方がいいのだ。・・・・・・そうすればきっと、私達がそれを希(ねが)おうなどとは思いも及ばなかったようなものまで、私達には与えられるかも知れないのだ。・・・・・・」そんなことまで心の裡で考えながら、それには少しも自分では気がつかずに、わたしはかえって何でもないように見える些細(ささい)な印象の方にすっかり気をとられていたのだ。・・・・・・
F「明かりをつけようか?」私は急に気をとりなおしながら言った。
「まだつけないでおいて頂戴(ちょうだい)・・・・・・」そう答えた彼女の声は前よりも嗄(しゃが)れていた。 しばらく私達は言葉もなくていた。
「あなた・・・・・・」彼女の声は今度は殆(ほとん)ど中性的なくらいに聞こえた。
「いま、泣いていらしたんでしょう?」
私はびっくりした様子で、急に彼女の方をふり向いた。
「泣いてなんかいるものか。・・・・・・僕を見て御覧(ごらん)」
G彼女は寝台の中から私の方へその顔を向けようともしなかった。もう薄暗くってそれとは定かに認めがたいが位だが、彼女は何かをじっと見つめているらしい。しかし私がそれを気づかわしそうに自分の目で追ってみると、ただ空(くう)を見つめているきりだった。
「わかっているの、私にも・・・・・・さっき院長さんに何か言われていらしったのが・・・・・・」
H私はすぐ何か答えたかったが、何(な)んの言葉も私の口からは出て来なかった。私は、再び、夕暮れかけた庭面を見入りだした。やがて私は、私の背後に深い溜息(ためいき)のようなものを聞いた。
「御免(ごめん)なさい」彼女はとうとう口をきいた。その声はまだ少し顫(ふる)えを帯(お)びていたが、前よりもずっと落ち着いていた。「こんなこと気になさらないでね・・・・・・。私達、本当に生きられるだけ生きましょうね・・・・・・」
I私はふりむきながら、彼女がそっと目がしらに指先をあてて、そこにそれをじっと置いているのを認めた。
いかがでしたか?節子と主人公の表情、少し疲れた声、病室の様子などがすぐそこに現れたでしょうか?少し物悲しい情感に浸れたでしょうか?では、早速設問に入ります。
(問題)
上記文章は内容により、3つの段落に分けることができます。第2段落、第3段落が始まる文をA〜Iで答えなさい。
【解説】
問題を解く前に「段落問題」の一般的な解法を説明します。
1、形式段落と意味段落の違いを確認しておきましょう。
(1) 形式段落
一字分下げて書いてあるところから、次に改行するところまでのひとまとまり。本文はA〜Iの9つの形式段落から構成されます。
(2) 意味段落
いくつかの形式段落を意味内容からひとまとめにしたもの。問題で問われているのはこの意味段落です。
2、段落問題の解き方を整理しておきます。
(1) 形式段落ごとに要点を読み取る。
●「中心文」や「キーワード」をもとにまとめてみる。
(2) 文章全体を意味段落に分ける。
●形式段落どうしがどういう関係でつながっているかを考えながら、分けてみる。
(3) 文章全体における意味段落の役割を考える。
1.話題が提示されている段落はどれか?
2.理由や具体例などが示されている段落はどれか?
3.結論が述べられている段落はどれか?
さて、上記解法を踏まえて、問題を解いてみます。まず、第一段落ですが、上記2(3)の「話題」にあたるので、節子の病状を医師あるいは父親の会話を通して示している部分つまりAとBが該当します。したがって、第2段落はCからになります。次に、第2段落では
上記2(3)の「理由」にあたるので、主人公と節子との会話でお互いの心情を確認しあっている部分つまりCからGまでが該当します。したがって、第3段落はHからになります。
なお、第3段落では上記2(3)の「結論」にあたる部分ですが、節子の「私達、本当に生きられるだけ生きましょうね・・・・・・」に表れているように今後の人生への決意を示しています。
【飛躍アドバイス】
最後に意味段落の分け方のコツをまとめておきましたので、良く復習しておいて下さい。
1、形式段落ごとに「話題」や「要点」を読み取る。
(1) 文章途中の問いかけの文、段落はじめの話題転換の接続語(「さて」「ところで」「では」など)に注目する。
(2) となり合う形式段落の話題や内容が共通しているのかどうか、連続しているのかどうかを考え、意味段落に分けてみる。
2、 文章構成の三つの基本型を考えて「筆者の言いたいこと」を読み取る
(1) 頭括型・・・・・・文章の最初でまとめるパターン。
結論(話題+まとめ) ⇒ 本論
(2) 尾括型・・・・・・文章の最後でまとめるパターン。
序論 ・・・・・・文章全体の「話題」を提示する段落。
↓
本論 ・・・・・・「説明」する段落
●具体例
●理由・原因
●くわしい説明
↓
結論 ・・・・・・文章全体の「まとめ」を示す段落
(3) 双括型・・・・・・文章の最初と最後でまとめるパターン。
結論(話題+まとめ) ⇒ 本論 ⇒ 結論