第6回 物語/記述式問題 I
今回からは2回にわたり、物語の記述式問題について学習します。
今回は記述式問題の中でも特に文章の要旨をまとめる方法について解説してゆきます。
では、まず次の文章を目の前にありありと鮮明なイメージが浮かぶように留意しつつ、スピードも意識して2分以内くらいで読んでみてください。
なお、出典は『しろばんば』(井上靖)です。
三十分程休んで、洪作と唐平は伯母の家を辞して、*棚場へ向かった。途中まで伯母が送ってくれた。持越部落を出ると、道は山へはいっていた。熊笹(くまざさ)に覆(おお)われた細い道であった。洪作と唐平は口をきかなかったが、こんどは離れることなく、一緒になって同じ歩調で歩いた。山道になったので、二人ともひとりで歩くのは心細かった。洪作が先になったり、唐平が先になったりした。
洪作は門野原の家を離れて、このような山奥にひとりで住んでいる祖父に何となく常人ばなれしたものを感じ始めていた。これまで祖父林太郎のことなど一度も考えてみたことはなかったが、今そこを訪ねて行こうとして熊笹の道を歩いていると、一体祖父林太郎はいかなる人物なのであろうかと思った。
唐平が足を停(と)めると、洪作も足を停めた。また反対に洪作が足を停めると、唐平も足を停めた。何回目かに二人が足を停めて、ゆるいだらだら坂の中途でひと息入れている時、あたりの雑木林(ぞうきばやし)にこだまして木を切る音が響いて来た。
「あれは、祖父(じい)ちゃんが木を切ってる音だ」
唐平は言った。
「本当か」
「祖父ちゃんでなかったら、祖父ちゃんのとこにいる粂(くめ)さんという人が木を切ってるんだ」
唐平は言った。
「ここへ来たことあるんか」
洪作が聞くと
「あるさ。前に吉奈の山を越えて来たことがある」
唐平は言って、それからまた歩き出した。祖父林太郎の住んでいる家が眼にはいって来た時、洪作はよくもこんな淋(さび)しいところにひとりで住んでいられるものだと思った。その家の周囲はすっかり雑木林で埋(う)まっていて、足を停めると、どこか近くを流れている小川の音が聞えるほか何も聞こえて来なかった。そして山間の冷気が周囲から立ち上ってくる感じだった。その家の前へ立つと、
「じいちゃん」
唐平は呼んだが、内部からは何の応答もなかった。二人はその家の周囲をぐるりと廻(まわ)ってみた。家といっても、掘立(ほったて)小屋といった方がふさわしい小さい家だった。それでも横手へ廻ると、小さい縁がついていて、その縁側からのぞくと、四畳半(よじょうはん)ほどの部屋がふたつあって、奥の部屋に囲炉裏(いろり)が切られ、食器が棚の上にきちんと並べられてあるのが見えた。
こちらの部屋には勉強机が一つ置かれ、壁には、これもまたきちんとした感じで何着かの仕事着が掛けられてあった。洪作はこれまでに、このように簡単な、このように整頓(せいとん)された家を見たことはなかった。
洪作と唐平はそこの小さい縁側に腰を降ろして祖父林太郎が帰って来るのを待った。縁側の前にある猫の額ほどの庭には黄色の菊が咲いていた。
洪作は妙にしんとした気持ちになってそこに腰を降していた。家の前面を覆っている雑木林はすっかり紅葉していた。葉は既(すで)に散り始めて、梢(こずえ)が半ば透(す)いてみえていた。やがて遠からず葉一枚ない裸木の林がここからは眺められる筈(はず)であった。
洪作は傍に唐平が居ることも忘れ、妙に淋しい自分一人の思いの中にはいっていた。やがて葉は一枚一枚落ちて行くだろう。そしてすっかり葉がなくなった時、冬はやって来るだろう。冬がやって来た時、一枚の葉もなくなった木々は身を固くして、寒さに耐(た)えるだろう。そんな木々と同じような生活を、自分の祖父はここでしているのだ。自分などの知らなかった孤独な生活がある。そしてその孤独な生活を自分の祖父は自分に課しているのだ。
「じいちゃんを探して来る」
唐平は縁側から立ち上がって、どこかへ出て行ったが、洪作は縁側から動かないでいた。動きたくない気持ちがあった。十五分程すると、唐平は祖父林太郎と一緒に戻ってきた。
祖父の顔を見た時、洪作はこれが祖父だったかと思った。いつのことか忘れたが、とにかくどこかで会ったことのある人物であった。痩(や)せた老人は、粗末な仕事着を身につけて、少し腰を折った姿勢ではいって来た。
「洪か、よく来たな」
祖父は眼を細めた優しい表情をして、静かな声で言った。洪作は黙って頭を下げた。祖父は改めて頭のてっぺんから爪先(つまさき)まで見廻すようにして、
「大きくなったな。唐とどっちが大きいかな」
と言った。
「同じくらいです」
洪作が少し緊張して答えると、祖父はもうそのことからは思いを移している風で、
「どれ、椎茸(しいたけ)飯でも御馳走(ごちそう)することにするかな。――どっこいしょ」
そんなことを言って、台所の方へ廻って行った。唐平がここへ来る途中言ったように、粂さんという青年が祖父林太郎と一緒に住んでいた。粂さんが姿を現すと、洪作と唐平はその青年に連れられて、椎茸の*榾木(ほたぎ)が並んでいるところへ連れて行かれた。
(注)
*棚場・・・山の傾斜の緩やかになった部分
*榾木・・・椎茸を栽培するために切った椎・栗・くぬぎなどの木
いかがでしたか。山間での少年2人と老人との触れ合い、会話の声、表情、息遣いが感じられたでしょうか。では、早速問題に入りましょう。
〔問い〕
この文章の要旨を九十字以内でまとめなさい。(なお、句読点も一字とみなします。)
【解説】
では、この問題を解く前に物語文の仕組みについて整理しましたので確認しましょう。
(一) 物語は最低次の三つの要素で成り立っている。 <場面・できごと・反応>
(二) 長い物語は、これが、二回以上にわたって組み合わされているのである。
(三) 物語は、<できごと>中心のものと<反応>中心のものと二種類に分けることができる。
(四) 内的反応部分に主題がある場合が多い。(外的反応・・・・・・外から見てわかる変化、内的反応・・・・・心で思ったこと、気持ちや心情)
場面とは、「いつ・どこで(情景とも状況ともいう)」、できごとは「だれが・どうした」、反応は「そしてどうなった」という意味です。テストには、たいてい長い物語を短く切り取ったものが出題されますが、どういうぐあいに切り取られるか、というと、この三つを含むものが、一つの単位として切り取られるのが基本だといえます。
さらに、物語の読解とは、この三つの要素の関係・関連を考えること、この関連を読むことだと言ってよいでしょう。
では、以上のことをふまえて「要旨をまとめる」にはどうすればよいでしょうか。下記のとおりに整理しました。
1.的確な読み取りが基本(原文と問いの中に答えはある)
先入観をもたずに、筆者の文章を出題者の道案内で素直に読むことが大切です。 記述問題の条件は、文章と問題文に書かれています。その条件を守ることが、解答者の心情によっておろそかにされがちですので、十分注意しましょう。出題者はその文章の内容を読み手に理解してもらいたいのですから、問い全体で文章の読み取り方を説明しています。“解き方は問いの中”にということばを心に刻みましょう。
2.問題文を先に読もう
ふだん読む文章は自分自身の好みによって選び、好きな読み方をすればよいのです。しかし国語の試験で出題された文章は、出題者の好みによって選択された文章を、出題者の意図に沿って読んでいくしかありません。それならば先に読んでいた方が無駄が省けます。
(一) 問題文を読む→問いを頭に入れる
(二) 文章を読む→接続詞を書き込んだり、何度も出てくる言葉や、抜き出しの部分に印をつけたりしながら
(三) 一問ずつ解いていく、文章の問われている部分を読み返しながら
(四) よくわからない問いはとばす(次の問がヒントになっていることもあるから)
(五) 最後に解答用紙に書く、ぬき書きは正確に
.3.文末に注意して筆者の考え方を読み取る
(「と思う」「べきだろう」「ではないか」など)
では、今までの解説をもとに要旨をまとめてみましょう。
以下は解答例ですので参考にしてください。
『山奥での孤独な生活を自分に課している祖父に対して、自分自身の孤独感を重ね合わせて同情している洪作とあっけらかんとして自分のペースを守っている唐平との心の交流を描いている。』(85字)
【飛躍アドバイス】
答えを決めるときは、その根拠を確認する癖を身につけましょう! 文章を選ぶ先生は一人でも、問題は担当の何人かの先生で何度も検討されており、先生も筋道を立てながら答えを出したはずです。「ここにこう書かれているのだから」あるいは、「どこにもそんなことは書かれていないから」などと繰り返し検討されているのですから、解答者も自分でそう答える理由を自分自身に説明できなければなりません。