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イメージ力を鍛えると国語の偏差値は飛躍的に上がる!

第7回 物語/記述式問題II

 

 今回は前回に引き続き、物語の記述式問題について学習します。今回は記述式問題の中でも特に人物の気持ちをまとめる方法について解説してゆきます。では、まず次の文章を目の前にありありと鮮明なイメージが浮かぶように留意しつつ、スピードも意識して2分以内くらいで読んでみてください。
なお、出典は『屋根の上のサワン』(井伏鱒二)です。

 おそらく気まぐれな狩猟家(しゅりょうか)か悪戯(いたずら)ずきな鉄砲(てっぽう)うちかが狙(ねら)い撃(う)ちにしたものに違いありません。私は沼池(ぬまいけ)の岸で一羽の雁(がん)が苦しんでいるのを見つけました。雁はその左の翼(つばさ)を自らの血潮(ちしお)でうるおし、満足な右の翼だけ空(むな)しく羽ばたきさせて、水草の密生した湿地(しっち)で悲鳴をあげていたのです。

  私は足音を忍ばせながら傷ついた雁に近づいて、それを両手に拾いあげました。そこで、1.この一羽の渡鳥の羽毛や体の温かみは私の両手に伝わり、この鳥の意外に重たい目方は、そのときの私の思い屈(くつ)した心を慰(なぐさ)めてくれました。私はどうしてもこの鳥を丈夫(じょうぶ)にしてやろうと決心して、それを両手に抱(かか)えて家に持って帰りました。そして部屋(へや)の雨戸を閉(し)めきって、五燭(しょく)の電(でん)燈(とう)の下でこの鳥の傷の治療(ちりょう)にとりかかったのでありました。  けれど雁という鳥は、ほの暗いところでも目が見えるらしく、洗面器の石灰酸やヨードフォルムの瓶(びん)を足蹴(あしげ)にして、私の手術しようとする邪魔(じゃま)をします。そこで少しばかり手荒(てあら)ではありましたが私は彼の両脚(りょうあし)を糸で縛(しば)り、暴(あば)れる彼の右の翼をその胴体(どうたい)に押し付け、そうして細長い彼の首を私の股(また)の間に挟(はさ)んで、

 「じっとしていろ!」

 と叱(しか)りつけました。
  ところが彼は私の親切を極端(きょくたん)に誤解して、私の治療が終わってしまうまで、私の股の間からは、あの秋の夜更(よふ)けに空を渡る雁の声がしきりにきこえたのです。

 治療が終わってからも、私は傷口の出血がとまるまで彼を縛ったままにしておきました。さもなければ彼は部屋の中を暴れまわって、傷口に塵(ごみ)が入るおそれがあったからです。

 私は治療の結果が心配でした。手術の器械など私は持っていないので、鉛筆削(えんぴつけず)りの小刀でもって、彼の翼から四発の散弾(さんだん)をほじくり出し、その傷口を石炭酸で洗って、ヨードフォルムをふりかけておいたのです。六発の散弾が翼の肉の裏側から入り込んで、そのうちの二発は肉を裏から表に突きぬけていました。多分この鳥を狙い撃ちにした男は、雁が空に舞いあがったところを見て、銃(じゅう)の引金を引いたのでしょう。そして弾丸にあたった雁は、空から斜(なな)めに落ちて来て、負傷の痛手が治るまで水草のなかで休んでいるつもりでいたのでしょう。ちょうどそこへ私が通りかかったわけで、そのとき私は、言葉に言い表わせないほどくったくした気持で沼地の岸を散歩していたのです。

 私は、縛ったままの雁を部屋のなかに置き去りにして、隣の部屋で石炭酸のにおいのする手を洗ったり、雁に与える餌(えさ)をつくったりしていました。けれど私自身はたいへん疲れてしまっているのに気がついて、火(ひ)鉢(ばち)に凭(もた)れて眠ることにしました。こういう眠りというものはしばしば意外に長い居眠りとなってしまうものです。そして夜更けになってからでなくては、目がさめないというようなことがあります。

 私は真夜中ごろになって目がさめました。けたたましい雁の鳴き声によって目をさましたのです。隣(となり)の部屋で傷ついた雁は甲高(かんだか)くかつ短く三度ほど鳴きました。足音を忍ばせて襖(ふすま)の隙間(すきま)からのぞいてみると、雁は脚や翼を縛られたまま、五燭の電燈の方に首をさしのべて、もう一度鳴いてみたいような様子をしていました。おそらくこの負傷した渡鳥は、電燈の明かりを夜更けの月と見違えたのでしょう。

 雁の傷がすっかり治ると、私はこの鳥の両方の翼を羽だけ短く切って、庭で放し飼いにすることにしました。この鳥は非常に人なつこい鳥らしく、私が外出するときには門のところまで私の後をつけて来たり、夜更けになると家のまわりを歩き廻(まわ)ったりして、あたかも飼犬がその飼主に仕えるのと少しも変わりませんでした。私はこの鳥にサワンという名前をつけ、野道や沼地への散歩に連れて出かけたりしたのです。

 「サワン!サワン!」

 サワンは眠そうな足どりで私の後について来ます。
 2.沼地は、すでに初夏の装いをしていました。その岸には私の背丈(せたけ)とほとんど同じ高さに細い茎の青草が繁(しげ)り、水面には多くの水草の広い葉や純白の花が生育していました。サワンはどうやらこの沼地を好んだらしいのです。彼は水に滑(すべ)り込むと、短い翼で羽ばたきしたり尾(お)を振ったりして、彼がこの水浴に倦(あ)きてしまわなければ、私がいくら呼んでも水から上がって来ませんでした。そういうとき、私は叢(くさむら)に寝ころんで常に私自身の考えに耽(ふけ)るのが慣(なら)わしでありました。なるほど私はサワンの水浴を見守るために沼地へ出かけたのではなく、私のくったくした思想を追いはらうために散歩に出かけたのです。

 サワンは水面に浮かぶことを好んだのみでなく、水に潜(もぐ)ることをも好みました。時としては水中にひそんでいることさえもありました。しかし幸いにしてこの沼地の水は良く澄(す)んでいたので、私はサワンが水中で餌を漁(あさ)ったりしている姿を見ることができました。

 雁という鳥は、元来、昼間の光線や太陽熱を好まないものらしいのです。私がサワンをうっちゃっておく時には、彼は終日、廊下の下にうずくまって昼寝ばかりする習性でした。けれど夜は(私は庭の木戸を閉じて彼が逃亡しない仕掛(しか)けにしておいたのですが)サワンは垣根(かきね)を破ろうとしたり木戸を跳(と)び越(こ)えようとしたりして、なかなか元気盛んでした。

 さて、サワンの痛々しい姿や治療中の切迫感、主人公とサワンとの日中の散歩風景などが「見えました」か?
では、設問に入る前に人物の気持ちの読み取り方についてのポイントを解説しておきます。

 気持ち・性格を考える時は、必ず根拠となる部分(傍線部の近くにある)をさがすことが大切です。そして、人(場合によっては動植物)の気持ちというのは実に様々ですから、「こういうときにはこういう気持ちになるものだ」という思い込みで文章を読んでしまうのは、間違いのもとです。物語の中で繰り広げられているドラマを一歩下がったところから冷静にながめられなくてはなりません。国語の試験では客観的に読み取る力が試されているわけです。次には気持ちを読み取る手がかりについて整理しましたので参考にして下さい。

人物の気持ちの読み取り方

 1、間接描写...直接「うれしい」や「悲しい」等の表現がなくても間接的な表現からも気持ちを読み取ることができます。
(1)行動・動作
 例)合格発表の日、掲示板に自分の受験者番号を見つけて、思わず飛び上がった。
行動・動作 → 喜び・うれしさ
(2)表情・態度・様子
 例)テストで0点だったことを知られてしまい、彼の顔は見る見る真っ赤になった。
表情・態度・様子 → 恥ずかしさ・くやしさ
(3)会話・言葉
 例)「いいかげんにしてくれ!
会話・言葉 → 怒り

 2、情景描写...一見すると何ら人物の気持ちと関係ないようですが、情景の描写の仕方によっては、人物の気持ちが表現されている場合もあります。
(1) プラスの気持ち
 例)朝の柔らかな日の光を浴びて、街全体が黄金色に輝いていた。
→ 希望・明るさ
(2) マイナスの気持ち
 例)夕闇のせまる中、街全体が血の色に染まっていた。
→ 絶望・悲しみ

 では、設問に入ります。上記の解説を頭に入れた上で問題にあたりましょう。

 【問1】 文中の傍線部1.「この一羽の渡鳥の羽毛や体の温かみは私の両手に伝わり」について、このときの「私」の気持ちを70字以内で説明しなさい。(句読点も一字に数えます。)

 【問2】 傍線部2.「沼地は、すでに初夏の装いをしていました。」という表現により作者が「私」とスワンとの共通したある気持ちを表現していると考えられます。どんな気持ちなのかを70字以内で答えなさい。(句読点も一字に数えます。)

 【問1について】
  上記解説にもありましたように、まずは解答の「根拠となる部分(傍線部の近くにある)をさがすことが大切」です。すると、傍線部のすぐ後に「.....そのときの私の思い屈した心を慰めてくれました。」という表現があるので、この部分を根拠としてさらに傍線部@文中の「温かみ」という表現もあわせて考えてみましょう。(つまり傍線部文中自体にも根拠が隠されていることが多いといえます。)次に、記述の仕方で注意することは、「そういう気持ちになった理由・原因も明記する」ということです。解答例は下記のとおりです。
 【解答例】
 思い屈した心で沼池の岸を散歩していたが、傷ついた雁を見つけて両手に拾い上げ、体の温かみを直接感じると、心がいやされて温かい気持ちになった。(69字)

 【問2について】
 解説中の『情景描写』の項目にもありましたが、傍線部2.「沼地は、すでに初夏の装いをしていました。」の表現は一見すると何ら人物の気持ちと関係ないようですが、ここでは「私」とサワンの共通した気持ちが表現されています。まずはプラスかマイナスいずれかの気持ちなのかを判別します。「初夏」という言葉からは明るい季節感、これから夏本番に向けてますます動植物の生命力が旺盛となり、成長力も高まるイメージつまり期待感や希望の心情を含んでいます。この「初夏」の語感を根拠としつつ、問1と同様に「そういう気持ちになった理由・原因も明記する」という心情(気持ち)記述の原則に留意しましょう。解答例は下記のとおりです。
 【解答例】
 サワンの傷もすっかり治り、私にもだんだんとなついており、お互いにこれからますます親密な関係を深めていけるのだという期待と希望に満ちた気持ち。(70字)

飛躍アドバイス

 最後に物語の気持ちを読み取る上で重要な『原因と結果の法則』について説明しておきます。
 たとえば、「プレゼントをもらう」=原因→「うれしい」=気持ち→「飛び上がる」=結果 の流れの中で、仮に原因しかわかっていないとすれば、どうなるでしょうか。
 「プレゼントをもらう」=原因→「うれしい」=気持ち と決めつけてしまうのは危険といえます。
もし、結果が「飛び上がる」ではなくて、「顔が真っ赤になった」ならば気持ちは「うれしい」とはならないはずです。「腹が立つ」や「恥ずかしい」となるはずです。
 したがって、気持ちを確定するには、原因結果の両方を確認する必要があります。

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