第14回 随筆/書き抜き問題
山本講師(鉄人会専任スーパープロ家庭教師)
今回は、随筆の書き抜き問題について学習します。
では、まず次の文章を目の前にありありと鮮明なイメージが浮かぶように留意しつつ、スピードも意識して2分以内くらいで読んでみてください。なお、出典は『ねずみ花火』(向田邦子)です。
鹿児島に転勤してすぐだから、私が小学校四年生、弟が二年生の時だった。弟の同級生で富迫君という少年がいた。弟は内気なたちで、転校するとなかなか友達が出来ないのだが、この富迫君とはすぐ仲よくなった。
弟も小柄だったが富迫君はもっとチビで、顔も目玉も声もすべて小さい子供だった。面差しが鼠に似ていた。弟と一緒に学校から帰って、ランドセルを置きに子供部屋に入ると、梁から鼠が顔を出したことがあった。
「あ、富迫君」 と私がいったら、弟は物もいわず草履袋で私を引っぱたいた。
富迫君は父親がなく、母親と二人暮らしだった。ゆとりのない暮らしとみえて、身なりもみすぼらしかった。
父は富迫君を可愛がった。身勝手な人間で、自分の仕事関係の客は無理をしてでももてなすが、子供の友達などうるさがった人だが、富迫君だけは別だった。父は父親を知らない自分を、親戚から村八分にあいながら、母親の賃仕事で大きくなった惨めな自分の少年時代を彼の上に重ねて見ていたのだろう。
汗ばむ季節だったから、初夏だったのか夏の終わりだったのか。日曜日の一日を父は私と弟を連れて吹上浜というところで遊んだ。富迫君も一緒だった。富迫君は、黒っぽい風呂敷に弁当を入れて斜めに背負ってついてきた。おひるにあけたのを見ると、自分の顔より大きい海苔を巻いた握り飯だった。父はその握り飯を自分で食べ富迫君にはうちから持ってきた海苔巻を食べさせた。水筒に入った甘い紅茶を自分でついでやっていた。
吹上浜は薩摩半島の鹿児島市の真裏にあたる砂丘である。
真っ白い大小の砂の丘が、見渡す限りひろがって、その果てに波打ちぎわがあった。お弁当をすませた弟と富迫君は角力をとっていたが、組み合ったまま、ゆるやかな砂の斜面をごろごろと下へ転げ落ちた。落ちたところで、なおもふざけながら、坊主頭の砂をはらい合っては笑っている。
父も笑いながら見ていたが、不意にハンカチを出すと眼鏡の曇りを拭きはじめた。父は泣いているようだった。
それからしばらくして、弟は学校から帰るとランドセルを母に渡しながら、 「富迫君のお母さんが死んだよ」 といった。
その夜、父にいわれて、私と弟は祖母に連れられてお悔やみにいった。
富迫君のうちは、ゴミゴミした路地の更に奥にあり、ぬかった道に板が渡してあった。
一間きりの家にみかん箱を引っくりかえして風呂敷をかぶせた粗末な祭壇がしつらえてあり、富迫君がポツンと坐っていた。弟の顔を見てニコッと笑った。祖母は口のなかで経文を唱え、長いこと手を合わせていた。坐っている富迫君の頭の上に、誰かのお古なのか、端がすれて白くなり、片側がめくれ上がったランドセルがひとつかかっていた。
生まれてはじめてお通夜に行ったせいか、私は富迫君のお母さんに逢ったことはないのだが、前から知っていた親しい人に死に別れた気がして、泣きたいような気持ちで、またぬかるみに渡した板の上を通って帰ってきた。
今でも「お通夜」と聞くと、この鹿児島の一夜が目の底に浮かんでくる。花もなくお経も聞こえず、供えものすらなかったさびしいお通夜だったが、今思い返すと妙にすがすがしく懐かしい。
お通夜や葬式に、冷たくこわばった金銀の飾りものの花やものものしい祭壇で飾り立てるようになったのはいつからか知らないが、あの何もないお通夜には、貧しくとも切実な人と人との別れがあったような気がする。このすぐあと私達一家は鹿児島を離れたので、それ以来富迫君の消息は判らなくなってしまった。
【随筆とは・・・】
「随筆」とは、筆者が実際に体験したこと及び感想や考え方を述べた文章のことです。基本的には、はじめに過去、あるいは現在経験したことが書かれ、最後の方で感想や考え方がまとめられています。物語は実際に体験したことではないフィクションであり、説明文は体験よりも、理論を中心にあるテーマを解説するという点が異なりますので、一見して区別のつかない場合はこれらの特徴を基準に判断しましょう。
【書きぬき問題のテクニック】
書きぬき問題は、(1)部分的に抜き出す場合(2)一文全体を抜き出す場合(3)条件文に当てはめる場合の3種類が最も多いパターンといえます。また、字数指定もよく見られます。
では、書きぬき問題を解くテクニックにはどのようなものがあるのでしょうか。
書きぬき問題とは言いかえれば、本文中から答えを探し当て、見つけ出す力を試す問題だといえます。たとえて言えば、大切な物をうっかり落としてしまったときに、一生けん命、色々な手がかりを思案しながらあちらこちらを探し当てていくことと、共通原理は同じだといえます。つまり、やみくもに探しても時間がかかるだけでなかなか見つからない物でも、きちんと方針を定めて準備を万全にしてから探せば、より短時間で、効率良く探し出せるでしょう。
ということは、書きぬきテクニックで重要なことは、答えを探し当てる準備をいかにしっかりできるかということがわかります。では、具体的にどのような準備をしておけばよいのかをこれから見てゆきましょう。
(1) 設問キーワードに注意
「設問キーワード」とは、書きぬき問題の設問中の言葉でも特に重要な言葉のことです。たとえば、「このような原因で変化したことを具体的に示している部分を25字前後で抜き出しなさい。」という設問があった場合、キーワードは「具体的に」という言葉です。つまり、「具体的(=よりくわしいこと)」に書かれた表現のみ探してゆくことになります。「具体的に」という言葉が、フィルターとなって、探す範囲を狭めてくれるのです。
(2) プラス、マイナスイメージの区別
答えを探す過程では、しっかりとアンテナを立てて、アンテナが答えをキャッチしやすい状態にしておく必要があります。そのためには、答えに該当する言葉がプラスイメージなのか、マイナスイメージなのか明確にするという方法が有効です。では、プラスのアンテナ、マイナスのアンテナはどのようにして立てればよいでしょうか。たとえば、「『大量消費社会ゆえに避けがたい宿命のようなもの』が示す一文を抜き出しなさい。」という設問について検討してみましょう。まず、ここでの設問キーワードは「避けがたい宿命」ですが、「避けがたい」とありますから、「できれば避けたいが、避けることができない」つまり、マイナスイメージだということがわかります。そして、マイナスイメージのアンテナを立てて答えを探してゆきます。当然、マイナスイメージを発している言葉のみをキャッチしてゆくと、やはり探す範囲の幅が広がり、より効率良く正答できるようになります。
(3) 迅速に探す方法
(1)書きぬき問題の答えが、最も見つかりやすいスペースは設問傍線部の前後です。前後というのは前5行後5行の合計10行くらいを指すと考えてもよいでしょう。まずは、前後スペースから探し始めましょう。
(2)字数指定がある場合は、文字数の数え方もよりスピードが必要です。原則として前からでなく、後ろから(始点より終点の方が確定しやすいため)、5文字ずつ区切りながら数えるようにすると、かなりスピードアップします。
(3) 探す時は当然、文章を速く読む作業となりますが、よりスピードアップするために、各文
一行を半分に分け、ひと目で半行を写真をとるかのように、漢字(特に熟語)だけを選り分けて見るように意識するとうまくいきます。
《問 題》
傍線部「『お通夜』と聞くと、この鹿児島の一夜が目の底に浮かんでくる。」とありますが、それはこのとき筆者がどんなふうに感じたからですか。そのことが書かれている部分を、「・・・から」に続くように、文章中から25字前後で抜き出して書きなさい。
《解説》
まず、設問キーワードは「鹿児島の一夜」と「感じた」という言葉です。傍線部の直後の文章では「鹿児島の一夜」について、「すがすがしく懐かしい」とあり、プラスイメージだとわかります。また、「感じた」ことなので「思う」とか「気がする」など、心情を表している部分を探せばよいとわかります。これらのアンテナを立てて探してゆくと、傍線部の4行後から「貧しくとも切実な人と人との別れがあったような気がする。」とあり、これが正解となります。 《解答》貧しくとも切実な人と人との別れがあったような気がする(から)。(26字)
【飛躍アドバイス】
随筆の書き抜き問題を解くポイントは次の3つです。
- 1.設問キーワードに注意すること。
- 2.プラスイメージなのか、マイナスイメージなのかを明確にすること。
- 3.迅速に探す工夫をすること。(傍線部前後から探す/漢字を意識/5文字区切りで数える)