第13回
藤木講師(中学受験鉄人会スーパープロ家庭教師)
2007年4月13日、憲法改正における国民投票の手続きを定めた法案が衆議院で可決されました。憲法は国のあり方の根幹をなすものであり、今後の日本がどのような国になるのかを決定する重要な法律でもあります。従って憲法を改正するということは、大きく言えば国を変えるということにもつながるわけで、日本の将来に重要な影響を及ぼすことは間違いありません。そこで今回は、このテーマを少し詳しく検討してみたいと思います。
(1)まず憲法の改正手続きを確認してみましょう。( )内に入る語句・数字がわかりますか。
憲法改正には2段階の手続きが必要とされます。最初に国会において、( ア )の総議員の( イ )以上の賛成決議で憲法改正が( ウ )されます。ここで留意する点は2点。1つはここでは予算審議や条約制定などにおいて認められている( エ )がなく、両院が平等の権限をもっているということ。そしてもう1つは通常の決議よりも厳しい( イ )以上という数が決められているということです。そして、国会での( ウ )がなされると、( オ )が行われ、そこで( カ )の賛成が得られると、改正されることになります。その後、( キ )が国民の名で改正憲法を公布します。これは( ク )の助言と承認に基づく( ケ )の1つでもあります。
(答) ア)衆・参各議院 イ)3分の2
ウ)発議 エ)衆議院の優越
オ)国民投票 カ)過半数 キ)天皇
ク)内閣 ケ)国事行為
(2)今回の衆議院決議で可決された法案は上記の改正手続中、国民投票の部分についての細かい規則を定めたものです。その内容は次のようになります。
- 国民投票権を有する者(有権者)は18歳以上の男女である。
- “過半数”とは有効投票数の過半数である。
- 改正された憲法は公布から3年後に施行される。
- 国民投票の対象は憲法改正に限られる。
(3)今回制定された国民投票法がかかえる問題点として最大の論点はAの“過半数”の意味にあります。外国の改正手続きを比較研究すると次の3タイプに分かれるようです。
(ア)「有権者数の」過半数
(イ)「投票者数の」過半数
(ウ)「有効投票数の」過半数
日本は(ウ)を採用した訳です。
どのタイプを採用するかによって、どのような違いが出るか比べてみましょう。例えば投票結果が次のようなものだったとします。
有権者総数 1億人
投票率 35%
白紙票、書きまちがえなどの無効票数 500万票
(ア)を採用すれば1億人の過半数、つまり5000万を越える数。
(イ)を採用すれば、投票者は3500万人ですから、1750万を越える数
(ウ)を採用すれば、3500万−500万=3000万の過半数で1500万を越える数ということになります。
(ア)を採用した場合、上例では全員(3000万人)が賛成しても過半数に達しないことになります。
また、「最低投票率制度」を採用している場合もあり、例えば最低投票率が50%だとすると、上記の例では投票率が35%ですから、国民投票自体が無効、つまり開票・集計すら行われないということになります。(今回の日本の法案では最低投票率制度は採用されていません。)
(4)以上の事から、どのような問題が生じるか考えてみましょう。
(1)タイプ(ア)の場合、または最低投票率制度をとった場合、改正反対派がボイコット(わざと投票しない作戦)をして、改正を阻止しようとすることが考えられます。ボイコットとはある意味自分たちの要求をちからづくで認めさせようとする行為とも言えます。「投票」という正当な手段が用意されているのに、それをしようとしないのは権利を放棄していることになるとも言えます。このような「非常手段」で国のあり方が決められるのは民主主義に反するのではないでしょうか。
(2)タイプ(イ)・(ウ)の場合で投票率が低いとどうなるでしょう。例では1500万人(有権者の15%、国民総数から考えるとそれ以下の%)が賛成すれば簡単に憲法が改正されてしまいます。たった10数パーセントの支持しか得られない憲法が国の最高法規としてふさわしいかどうか考えさせられます。
これに対して、こんな反対意見もあります。
投票に行かなかった人は、行った人に権利を委任(いにん)したことになる。委任とは、「賛成か反対かの決断はあなた方に任(まか)せます。そして決定したことには文句を言わずに従います。」という意味をこめて、出席者(投票者)に自分の権利を託すということである。だから、たとえ少数の投票者しかいなくても、国民の総意は十分に反映している、と。確かに上の反論にも一理あるのですが、やはり憲法改正という事がらの重大さを考えると、一般で行われている「委任」の考え方をそのまま用いて良いかどうか考えさせられます。夏祭りの出し物を決めるのとは訳が違うのですから。
(5)以上、どのタイプにも問題はあるのですが、これらを一気に解消する妙案があります。それは「国民一人一人がきちんと日本の将来のことを考えて、きちんと投票に行く」ということです。日本は間接民主制(代議制)を採っているので、選挙や国民投票が、国民に認められた数少ない国政への参加手段です。受験生の皆さんも、あと数年すれば参政権を得るわけです。「大人の人たちに任せておけばいい」と思っている人がいたならそれは間違いというべきでしょう。今はまだ投票へは行けなくても、その制度についてきちんと知識を得ておく、ということが今の皆さんに課せられた宿題と言えるでしょう。