秘伝!国語入試問題の解き方

第6回 選択問題の解き方(3)

 うわさ通りに、里子の右目が治療のかいもなく失明したのは、中学二年の夏であった。義眼になったが、彼女の表情の豊かさがまるで違和感を感じさせなかった。以前の明るさも活発さも、すこしも失われた気配がなかった。中学校は難なく卒業し、土地の女子高校にもよい成績で入学した。彼が東京の大学に進学し、夏の休暇で帰省したとき、道で出会った里子は、彼にはまぶしくてたまらない笑顔で、「お帰りなさい。」とあいさつしてくれた。

 その休暇の間に、彼がかつての罪を里子に告白する気になったのは、もはや自責の念がが自分の力では支えきれぬほど心に重くなっていたせいでもあるが、里子の何事もなかったようなけなげさに、強く心を打たれたからでもあった。

 休暇も残り少なくなったある日の夕方、彼は、心苦しい思い出のある小公園まで里子にきてもらって、ここの落葉をたいたとき生栗を入れた犯人は自分だと告白し、里子の望むどんなつぐないでもするつもりだといった。すると、里子は思いがけなく、

「ありがとう。うれしいわ。あたしね、あなたがいつかはきっとこうして打ち明けてくれると思って、心待ちにしていたの。」

と笑っていった。

「……というと?」

「あたし、あのたきびに生栗を入れたのがあなただってことを知ってたの。あなたがそっと投げこむのを見ちゃったから。」

 彼はひどくおどろいた。

「でも、あたしはそれをだれにもいわなかったわ。」

と、里子はつづけた。

「家では、だれのしわざなのかってずいぶんさわいだけど、あたしがたのんで栗を入れた人を探すのをやめてもらったの。あたしは運が悪かっただけなのに、だれもが栗を入れた人の罪にする。それがいやだったから。あなたを罪人にしたくなかったから。」

 彼は、思わず里子の手をとった。

 結婚は、大学を出て東京の商事会社に就職してから二年目に、彼の方から申し込んだ。

「あたしへの責任とか同情とかと無関係だったら、喜んでお受けするわ。」

と里子はいった。

 結婚生活は平凡そのもので、里子は妻として可もなく不可もなく、子を三人産んで無事育て上げると、もはやこの世には未練がない、とばかりに、ある冬の夜明けに急性心不全であっさりとあの世へ旅立ってしまった。 

(三浦哲郎『たきび』による)

[ 問 ]

 下線部「彼は、思わず里子の手をとった。」とありますが、それはなぜですか。最も適当なものを、次の中から選びなさい。

  • ア 「栗を入れた人には罪はない」という里子の言葉を聞いて、思わずほっとしたから。
  • イ 事実を知っていたにもかかわらず、長い間だまっていた里子の思いに感激したから。
  • ウ こっそり栗を入れたのに里子は知っていた、ということにとてもびっくりしたから。
  • エ 何年も苦しんできた罪の意識からようやく開放されることが、とてもうれしかったから。

[ 解説 ]

 理由を問う設問です。理由(原因)には大きく分けて2種類あります。

(1)「出来事」が理由(原因)になっているもの。(目に見える)

(2)「気持ち」「考え」が理由(原因)になっているもの。(目に見えない)

第4回の解説をもう一度読み返してください。

 問題の難易としては、(2)「出来事」型より、(2)「気持ち」「考え」型の方が、難しくなります。

 理由となる「出来事」は、問題文を注意深く調べればだいたい見つけることができます。

 ところが、理由となる「気持ち」や「考え」そのものは、問題文の中にはっきりと記されていない場合が多いのです。

 そこで、問題となっている登場人物の「会話」や「態度」「様子」などをよく検討して、その「気持ち」や「考え」を推し量る必要があります。

 まず問題文の中に理由を探します。これは、下線部直前の「『でも、あたしはそれをだれにもいわなかったわ。』と、里子はつづけた。『家では、だれのしわざなのかってずいぶんさわいだけど、あたしがたのんで栗を入れた人を探すのをやめてもらったの。あたしは運が悪かっただけなのに、だれもが栗を入れた人の罪にする。それがいやだったから。あなたを罪人にしたくなかったから。』」という里子の言葉であることはあきらかです。

 そして、この言葉に対する感動が、彼に「思わず里子の手をとった」という行動をとらせたのだと考えられます。

 以上をふまえて各選択肢を検討します。第4回と同様に、原因と結果の関係にあてはめて、矛盾なくつながるかどうかを確かめます。

(原因)「『栗を入れた人には罪はない』という里子の言葉を聞いて、思わずほっとしたから」→(結果)「彼は、思わず里子の手をとった。」

・不自然です。

・「思わずほっとした」というのは、「自責の念」から開放され、自分に罪はないと安心する気持ちですが、これでは自己満足となり、里子の言葉に対する感動とはいえません。

・消去します。

(原因)「事実を知っていたにもかかわらず、長い間だまっていた里子の思いに感激したから」→(結果)「彼は、思わず里子の手をとった。」

・正しくつながります。

・正解の候補です。

(原因)「こっそり栗を入れたのに里子は知っていた、ということにとてもびっくりしたから」→(結果)「彼は、思わず里子の手をとった。」

・不自然です。

・たしかに問題文には「『あたし、あのたきびに生栗を入れたのがあなただってことを知ってたの。あなたがそっと投げこむのを見ちゃったから。』彼はひどくおどろいた。」とありますが、これは「おどろいた」理由であって、里子の言葉に対する感動の理由ではありません。

・消去します。

(原因)「何年も苦しんできた罪の意識からようやく開放されることが、とてもうれしかったから」→(結果)「彼は、思わず里子の手をとった。」

・不自然です。

・アと同様に「自責の念」からの開放されたことによる自己満足に過ぎません。

・消去します。

[ 正解 ]

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