第9回 手がかりの見つけ方…「近く」に手がかりがある出題(1)
1から8まで、三浦哲郎の「たきび」による出題を用いて、読解の大切なきまりをいくつか学習しました。
国語入試問題の解き方とは、簡単に言えば「設問をよく読み、しっかりと手がかりを押さえて解く」ということに尽きます。そして 正解の「手がかり」は、ほとんどの場合、問題文の中にあります。この原則をしっかり練習すれば、好・不調の波がなくなり、成績が常に上位で安定するようになります。
今回から、この「手がかりを押さえて解く」方法を、様々な入試問題を解きながら練習してみましょう。
まず、すばやく「手がかり」を探さなければなりません。探し方はすでに述べましたが、下線部(傍線部)や空欄の「近く」から「遠く」へが鉄則です。
そこで、比較的下線部(傍線部)や空欄の近くに「手がかり」がある出題をいくつか解いてみることにします。易しい設問ですから、無理に「手がかり」を探さなくても解けると思います。しかし、解説をよく読んで、難しい出題の場合でも、自分の解き方で解けるかどうか、よく考えてみてください。果たして大丈夫でしょうか?
●第1段落
古い遺跡が発掘されるとき、各種の人工遺物に混じって先史古代人の遺骸(いがい)である古人骨が出土するのは珍しいことではない。現実に、藤ノ木古墳では二体分の遺骨が見つかっており、吉野ヶ里からは三百人分にものぼるだろうといわれる大量の古人骨が発掘されている。多くは保存状態がはなはだ悪く、石器や土器や金属製品ほどには世間の耳目(じもく)を集めることは少ない。しかし、文字記録に残される事もなく、遠い過去の中に埋もれてしまった古代人の様子を復元するためには、これら製作物よりも、それを製作した当事者の遺骸のほうが、むしろ大きな役割を演ずる場合だってある。うまく活用すれば、先史古代人の実像に迫るような、実に様々な情報が期待できる。
[問一]
下線部「遺跡」「人工遺物」「遺骸」を具体的に示しているものを同じ段落からそれぞれ探しなさい。「遺跡」は2つ、「人口遺物」は3つ、「遺骸」は2つあります
[解説]
「遺跡」にあてはまるのは、問題文中に「藤ノ木古墳」と「吉野ヶ里」の2つしかありませんから、答えるのは容易です。
しかし、いつもこのようにうまく行くとは限りません。そこで原則どおりに「手がかり」を押さえて解いてみましょう。
・「古い遺跡が発掘されるとき、…古人骨が出土する…」とあります。これは遺跡が発掘されるときの法則のようなものです。そこで、「遺跡」=「古人骨の出土」というつながりに注目します。
・この場合は直後に「藤ノ木古墳では二体分の遺骨が見つかっており、吉野ヶ里からは三百人分にものぼるだろうといわれる大量の古人骨が発掘されている。」と2つの例があげられています。
・ここでは「遺骨」と「古人骨」が同じ意味で用いられています。
・「遺跡」=「古人骨の出土」というつながりの具体例として、「藤ノ木古墳」と「吉野ヶ里」の2つがあげられているわけです。
「人工遺物」
・「人工」、つまり人間の作ったもので、しかも3つあるということです。
・「人工=人間の作ったもの」と「3つある」に当てはまるのは、「石器や土器や金属製品」のみです。
・「石器や土器や金属製品ほどには世間の耳目(じもく)を集めることは少ない。しかし、文字記録に残される事もなく、遠い過去の中に埋もれてしまった古代人の様子を復元するためには、これら製作物よりも、…」とありますが、「これら製作物」つまり「人間の作ったもの」は「石器や土器や金属製品」を指しています。
「遺骸」
・「遺骸である古人骨が…」とありますから、「遺骸」と「古人骨」は同じです。
・また、「藤ノ木古墳では二体分の遺骨が見つかっており、吉野ヶ里からは三百人分にものぼるだろうといわれる大量の古人骨が発掘されている。」とあり、「遺骨」と「古人骨」は同じです。
・まとめると、「遺骸」=「古人骨」=「遺骨」となります。
[正解]
遺跡
藤ノ木古墳・吉野ヶ里、
人口遺物
石器・土器・金属製品
遺骸
古人骨・遺骨
[問二]
下線部「当事者」にあたるものを文中からぬき出しなさい。
[解説]
「当事者」とは、そのことに直接かかわりのある人という意味です。第一段落を探してみた限りでは、登場人物といえるものが「古代人」しか見つかりません。これを下線部に当てはめて、「古代人の遺骸」としてみるとぴったりします。
このような解き方でも本問の場合は正解になりますが、いつもこのようにうまくいくとはかぎりません。原則どおり「手がかり」を押さえて解いてみましょう。
・1行目の「先史古代人の遺骸」に注目します。これは「当事者の遺骸」と一致すると考えられます。
・なぜなら1行目「古い遺跡が発掘されるとき、各種の人工遺物に混じって先史古代人の遺骸である古人骨が出土するのは珍しいことではない。」は、この段落の話題を述べた文であり、「先史古代人の遺骸」がその話題にあたります。
・2行目以降は、この「先史古代人の遺骸」という話題について詳しく述べられており、当然「当事者の遺骸」は「先史古代人の遺骸」を受けたものとなります。
もうひとつ、「手がかり」を押さえた方法で解いてみます。今度はかなり複雑になりますが、非常に重要な方法を含んでいます。
・下線部の前後をよく読むと、直前に「それを」という指示語があります。「それを製作した当事者の遺骸のほうが、…」
・下線部(傍線部)や空欄の近くに指示語がある場合は、必ずその指示内容を調べます。これは鉄則ですからよく覚えておいてください。
・指示内容はほとんど直前にありますから決して難しくはありません。この場合は「これら製作物よりも、それを製作した当事者の…」とありますから「製作物」です。
・さらに「これら製作物よりも、…」の「これら」についても指示内容を調べます。「石器や土器や金属製品」がそれに当てはまります。
・まとめてみましょう。「石器や土器や金属製品などの製作物よりも、石器や土器や金属製品を製作した当事者の…」となります。
・古い遺跡から発掘される「石器や土器や金属製品」を製作した人としてあてはまるのは「古代人」です。
[問三]
下線部「大きな役割を演ずる場合だってある」とありますが、それはなぜですか。次から選び、記号で答えなさい。
ア 遠い過去の生活を明確に伝えてくれるから。
イ 遺骸であるということで、みなの興味を集めやすいから。
ウ 人工遺物より遺骸の方が、多く出土しているから。
[解説]
(1)消去法 (2)残った選択肢の検討 の順序で解いてみましょう。
(1)消去法
イ 遺骸であるということで、みなの興味を集めやすいから。
・本文に「…遺骨が見つかっており、…古人骨が発掘されている。多くは保存状態がはなはだ悪く、石器や土器や金属製品ほどには世間の耳目(=興味・注目)を集めることは少ない。」とあります。
・遺骨や古人骨、つまり遺骸は「世間の興味を集めることは少ない」という意味になりますので誤りです。
・消去します。
ウ 人工遺物より遺骸の方が、多く出土しているから。
・本文に「藤ノ木古墳では二体分の遺骨が見つかっており、吉野ヶ里からは三百人分にものぼるだろうといわれる大量の古人骨が発掘されている。」とありますが、「人工遺物より遺骸の方が、多く出土している」とは、本文のどこにも記されていません。
・消去します。
(2)イとウが消去できましたので、正解は自動的にアとなるはずですが、ほんとうにアが正しいかどうか検討します。
・下線部直後の「うまく活用すれば、先史古代人の実像に迫るような、実に様々な情報が期待できる。」に注目します。この部分が下線部の理由にあたるようです。
・この部分を、「(…遺骸のほうが、むしろ)大きな役割を演ずる場合だってある。」「(なぜなら遺骸を)うまく活用すれば、先史古代人の実像に迫るような、実に様々な情報が期待できる(からである)。」としてみると、うまくつながります。
・この「うまく活用すれば、先史古代人の実像に迫るような、実に様々な情報が期待できる。」と意味内容が一致するのは、アの 「遠い過去の生活を明確に伝えてくれるから。」です。
・理由を問う設問ですから、すでに何度も試みたように、アと下線部を、原因と結果の関係に当てはめてみます。
・(原因)「(遺骸は)遠い過去の生活を明確に伝えてくれるから。」→(結果)「大きな役割を演ずる場合だってある」
・矛盾なくつながります。
[正解]
ア