秘伝!国語入試問題の解き方

第14回 難解な問題文の解き方 飛ばし読み・対立概念

次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。

 いやいやがまんするのではなくて、進んで行なう、これが心地よさの基礎である。ところが、砂糖菓子は口の中で溶かしさえすれば、ほかに何もしなくともけっこううまいものだから、多くの人々は幸福を(1)同じやり方で味わおうとして、みごとに失敗する。音楽は、[ 1 ]ことだけしかせず、自分では全然[ 2 ]ないのなら、たいして楽しくはない。だから、ある頭のいい人は、音楽を耳で鑑賞するのではなく、喉で味わうのだ、と言った。美しい絵からうける楽しみでさえ、下手でもいいから自分で描いてみるとか、自分で収集するとかしなければ、(それは)休息の楽しみであって、熱中の楽しさは味わえない。大切なのは、(2)判断するだけにとどまらず、探求し、征服することである。人々は芝居に行き、自分でいやになるくらい退屈する。自分で[ 3 ]することが必要なのだ。少なくとも自分で演ずることが必要なのだ。演ずることもまたつくり出すことなのだ。わたしは、人形しばいのことばかり考えてすごした幸福な数週間のことを思い出す。だが、ことわっておくが、(わたしは単に考えていただけではなく、)実際に小刀で木の根に、高利貸だの、兵隊だの、むすめだの、老婆だのを刻んでいたのである。ほかの連中がそれらの人形に衣装を着せた。わたしは観客のことなど眼中になかった。批評などというとるに足らぬ楽しみは観客どもにまかせておいた。(もっとも、とるに足らぬとはいっても、)いくらかでも自分(の頭)で考え出したという点では、批評もまた楽しみではあるのだが(…)。トランプをやっている連中は、たえずなにかを考え出し、勝負の機械的な進行に手を加える。だが、それにしても、(トランプの楽しさを味わうには、)ゲーム(のやり方)を学ばなければならない。なにごとにおいてもそうだ。幸福になるには、幸福になり方(=幸福になる方法)を学ばなければならない。

 解説者:注 ( )は原文にはありません。

 大人なら別に解釈に苦しむ内容ではないと思います。ここに述べられていることは、ある程度人生経験を積んだ人ならだれでも納得できるはずです。

 しかし、12歳の少年少女たちにとってはやや荷が重いのではないでしょうか。おそらく、彼らがこのレベルの文章に接する機会はほとんどないでしょうし、よほどの早熟な哲学少年あるいは少女でない限り、自らすすんでこのような類の書物に触れようとする動機はありません。

 これはフランスの思想家・アランの「幸福論」からとられたものですが、けっしてこなれた訳文とは言えず、流れるように読み下すというわけにも行かないようです。つまり、内容においても、また文体においても、受験生にとっては未知との遭遇となるわけです。

 ところで、今回のテーマは、難解な問題文への対処の仕方です。世の中には様々な人間がおります。マザー・テレサのような慈悲深い聖者から、宅間某のような、およそ人間の範疇を逸脱したとんでもない奴まで、それこそ目もくらむような落差があります。では、この問題を考えた出題者はいったいどちらなのでしょう。悪魔でしょうか、それとも天使でしょうか。設問をひとつひとつ解きながら考えてみましょう。

 なお、問題文中の( )は、読みやすくするために当方で加筆したものです。おそらく原文のままでは、意味が通りにくく、読解に難渋するでしょう。ともあれ、実際には原文(悪文?)のままで出題されたのですから、受験生のため息が想像されて、少々気の毒になってしまいます。

 今回は、まず問題文そのものの読み方から始めましょう。

 この文章は、受験国語のジャンルにおいては論説文となります。

 論説文は筆者の意見が中心となります。そして、かならずその意見についての論拠が述べられます。論拠の有無にとらわれず、自由に意見を述べたものは随筆です。

 さて、論拠の提示が論説文の条件となるわけですが、読んでわかりやすい論説文とは、この論拠の述べ方が巧みです。逆に論拠がわかりにくいと、読者は混乱し解釈に苦しむことになります。

 この文章はどちらでしょうか。あきらかに論拠の述べ方に問題があります。というのは、年少者がこれを読んでもなかなか実感をともなわないからです。大人は経験の蓄積から類似のケースを引き出して解釈を成立させることができます。しかし、経験に乏しい若年層には、そこから実感をともなった生き生きとしたイメージを感得するのはむずかしいということです。

 不幸にもこのような文章に出会った場合には、次の読み方を実践してください。

 鉄則 : 難解な論説文は、論拠(具体例など)を省略しながら意見だけを拾い読みする。

 これは難解な説明文にも妥当します

 さて、上記の問題文から、筆者の主な意見を拾い出してみます。

・いやいやがまんするのではなくて、進んで行なう、これが心地よさの基礎である。

・大切なのは、(2)判断するだけにとどまらず、探求し、征服することである。

・自分で[ 3 ]することが必要なのだ。少なくとも自分で演ずることが必要なのだ。演ずることもまたつくり出すことなのだ。

・幸福になるには、幸福になり方(=幸福になる方法)を学ばなければならない。

 このように並べてみただけでも、筆者の言いたいことはだいたい把握できます。

 どうも主題は「幸福になる方法」のようです。そして、その方法とは「進んで行なう」ことだ、というのが筆者の意見らしい。ここまで把握できれば、問題文の全体像がはっきりしてきます。

 ここでは論拠として様々な具体例が述べられているわけですが、読んでわかりにくいと思ったら、こだわらずに省略して読み進んでください。そして、筆者の意見のみをひとつひとつ押さえて行き、全体の結論に当たる部分を見つけ出すのです。

 一度あたまが混乱してしまうと冷静さを失い、焦りは焦りを呼んで、実力の半分も発揮できなくなります。しかし、自分が難しいと思うときは、他の受験生にとっても難しいのです。そんなときに、ひたすら強い精神力で突破するのも正しい立派な方法です。岩をも溶かす執念で粘り抜けば、必ずと言ってよいほど打開の道が開けます。一方、きちんとした対処の仕方を心得ておき、事態を冷静に受け止めて、平常心のまま対処する方法もあります。

 問題文の筆者であるアランは、「幸福になるには、幸福になり方(=幸福になる方法)を学ばなければならない。」と述べているのですが、同様に、「難問を解くには、難問を解く方法を学ばなければならない。」と心得るべきです。

 では設問に入ります。

 今回は、最初にすべての設問を一括して表示します。

[ 問一 ]

 下線部@「同じやり方」とはどういうものか。もっともふさわしいものを次のア〜エから選び、記号で答えなさい。

ア 砂糖菓子を、口の中で時間をかけてじっくり味わおうとするやり方

イ 砂糖菓子を、ただ口に含んでいるだけで味わおうとするやり方

ウ 砂糖菓子を、実際に進んで口に含んでみることで味を知ろうとするやり方

エ 砂糖菓子を、何の苦労もせずに手に入れようとするやり方

[ 問二 ]

[ 1 ]、[ 2 ]に入るのにもっともふさわしいことば(動詞)を、本文に合うようにそれぞれ二字で答えなさい。

[ 問三 ]

 下線部A「判断するだけにとどまらず、探求し、征服することである。」の説明としてもっともふさわしいものを次のア〜エから選び、記号で答えなさい。

ア 音楽や絵画は、素人ではなく実際に深く関わった人間でないと、その正しい価値は分からない。

イ 物事は表面だけをみて浅く判断しないで、その背後にある深い部分までしっかりとみるべきである。

ウ 音楽や絵画の静かな楽しみより、探検のように体を動かす楽しみの方が大きい。

エ 物事は受身で判断するのではなく、実際に行動するなかで積極的につかんでいくべきである。

[ 問四 ]

[ 3 ]に入るのにもっともふさわしいことばを、文中から五字で抜きだしなさい。

 以上の設問群を眺めて何か気づいたことがあるでしょうか。

 難しい問題、というよりよく練られた良問は、その設問群に首尾一貫した主題が隠されています。

 その設問群の主題とは、とりもなおさず問題文の主題です。考えてみれば、これは当然のことです。

 入試国語の問題文は、ある著書や論文等の一部を抜粋して作られます。出題者は、日頃様々な文章を読む際に、常に作問に適する部分の発見を念頭に置いています。そして論説文の場合は、ある明確な主題をめぐって、筆者の意見とその論拠および結論とが、あまり長くもなく、また短くもなく、作問にふさわしい分量をもって述べられているのを発見すると、早速それを切り取って検討を開始します。

 検討の結果、作問に適すると判断した場合は、その主題に関する理解を問うことを中心に、様々な設問が工夫されます。

 本問の場合は、すでに検討したように、「幸福になる方法」という主題に関して、それは「ものごとを進んでおこなうことである。」という形で論旨を把握しました。

 したがって、設問は上記の論旨が確実に把握できたかどうかをめぐって作成されます。

 もしも、上記の論旨を問わず、ただ漢字や文法、あるいはあまり意味のない空欄補充等で作問されたとすれば、これは明らかに悪問・愚問の類になります。

 なぜ悪問・愚問となるのか。答は簡単です。出題者自身が問題文の論旨を正しく理解していないか、あるいは重大な手抜きがあるからです。解釈力のない出題者は論外として、怠惰な出題者は、全く新しい問題文の発見に努力することなく、既出の問題、すなわち過去問の中から問題文を拝借して作問します。そして同じ設問を出題するわけにはいきませんから、既出の部分を避けて作問せざるを得ません。もしも、オリジナルの問題が核心部分を押さえ尽くしているならば、二番煎じの方は、その核心を離れてさほど重要でない部分を作問根拠とせざるを得ません。こうして迫力に欠けた中途半端な出題となるわけです。

 ここで問三を解いてみましょう。

[ 問三 ]

 下線部A「判断するだけにとどまらず、探求し、征服することである。」の説明としてもっともふさわしいものを次のア〜エから選び、記号で答えなさい。

ア 音楽や絵画は、素人ではなく実際に深く関わった人間でないと、その正しい価値は分からない。

イ 物事は表面だけをみて浅く判断しないで、その背後にある深い部分までしっかりとみるべきである。

ウ 音楽や絵画の静かな楽しみより、探検のように体を動かす楽しみの方が大きい。

エ 物事は受身で判断するのではなく、実際に行動するなかで積極的につかんでいくべきである。

[ 解説 ]

 下線部Aは、筆者の意見の部分です。これは既に「飛ばし読み」で把握してあります。しかもその際に、筆者の最も主張したいことは、「幸福になる方法とは『進んで行なう』ことだ。」という、この問題文の論旨も把握済みです。

 そうなると、解答は全く容易です。正解はエです。「積極的に」が「進んで行なう」に合致します。

 ただし、敵(=出題者)も然る者で、論拠として述べられた様々な具体例に翻弄されてしまうと、受験生は落とし穴にはまります。ひとつひとつ検討を加えましょう。

・アとウは「音楽や絵画」に限定されていることだけで不適切となります。下線部Aの直後には「芝居」の例も出ていました。主題は「幸福になる方法」ですから、その対象は、幸福をもたらす物事一般でなければなりません。

・ア 「素人ではなく」が、問題文の「下手でもいいから自分で描いてみるとか、自分で収集するとかしなければ、…」と矛盾します。

・イ これは注意しないと誤ります。「背後にある深い部分まで…」と下線部の「探求し、征服すること」とがよく似ており、問題文の解釈に疲労困憊して余裕のなくなった精神状態では、これが下線部の解釈としてふさわしいのではないかと早合点してしまうのです。ただし、よく読んでみれば、問題文の論旨とは接点がありません。

・ウ 「体を動かす」の部分に注意しましょう。問題文の、「進んで行なう…」「自分で描いてみるとか、自分で収集するとか…」「自分で演ずることが必要なのだ。」という部分が積極的なイメージをもっており、そこにつながりを感じてしまうかもしれません。しかし、「音楽や絵画の静かな楽しみ」と「探検のように体を動かす楽しみ」との優劣に関する比較はどこにも述べられてはいません。

 いきなり消去法を用いても正解のエにたどりつくことはできると思います。しかし、なによりもまず論旨を把握し、あらかじめ正解の候補としてエをしぼりこんでおくことが時間配分の観点からも重要です。

 「飛ばし読み」によって、一気に論旨を把握し、設問群をじっくり一覧する。すると、問三のエ「物事は受身で判断するのではなく、実際に行動するなかで積極的につかんでいくべきである。」という文に“当たり”を感じる。「これだ!」という一種の確信です。読解のプロセスがこのように進行すれば理想です。

 「進んで行なう」は具体的な表現です。これを抽象的に把握し直すと「積極的」という表現になります。このような抽象化能力が、思考力養成の大きな課題の一つです。

 さらに、「積極的」の反対語は「受動的」です。ここでは「受け身」となっていますが、このような対立概念の理解も同様です。

 人間は「善」と「悪」、「精神」と「肉体」というように、ものごとを抽象化し、尚且つ対立概念として把握します。そして、この方法によって、五感では認識不可能な森羅万象を、認識可能な模型として、すなわち組織的で秩序だったモデルとして把握することが可能になります。たとえば、インフレ・デフレという対立概念がなければ、経済事象は、およそ理解不能な混沌(カオス)として目に映ずるばかりです。

 さて、論旨を把握し、問三を解答した後では、問一が容易なことに気づくはずです。すでに「幸福とは積極的に得るものであり、受け身では得られないものだ。」という論旨が把握できています。砂糖菓子の例は、あきらかに「受け身」の例です。

[ 問一 ]

 下線部@「同じやり方」とはどういうものか。もっともふさわしいものを次のア〜エから選び、記号で答えなさい。

ア 砂糖菓子を、口の中で時間をかけてじっくり味わおうとするやり方

イ 砂糖菓子を、ただ口に含んでいるだけで味わおうとするやり方

ウ 砂糖菓子を、実際に進んで口に含んでみることで味を知ろうとするやり方

エ 砂糖菓子を、何の苦労もせずに手に入れようとするやり方

[ 解説 ]

・ア・イ・ウ・エの中で、ウは「積極的」な意味合いがありますので消去します。

・エは「手に入れようとする」が当てはまりません。

・残りのアとイのうち、「受け身」の意味に合致するのはイです。

 問二・問四の空欄補充においても、論旨を理解しておけばイメージの把握は容易です。

 問二の[ 1 ]は「受け身」、[ 2 ]は「積極的」な意味内容の言葉が入ります。二字の動詞とありますからしぼりこむのは容易です。

 問四の[ 3 ]は「積極的」な意味内容の言葉が入ります。五字という条件にしたがって探します。「演ずることもまたつくり出すことなのだ。」の「また」が決めてです。

[ 正解 ]

 問二 (1) 聞く (2) 歌わ   問四 つくり出す 

 さて、ここまで解き終わって感想はいかがでしょうか。設問群において、問題文の主題があやまたずに追究されており、また対立概念によって正解を導き出していく点で、正解の根拠が、曖昧さのない実に明晰なものとなっています。

 読みにくい原文をそのまま掲載した点については、もしかしたら批判の余地があるかもしれませんが、これは大学入試問題の作問技術がそのまま反映されている例で、高度なものです。つまり某大学の附属校の出題例ですが、おしなべて附属校にはこのような解き応えのある、充実した出題が多いのも事実です。

 ところで、最後におことわりしておきますが、ここに掲載した問題文は、あくまでも「解き方」の解説という趣旨から、実際の問題文の第一段落のみを取り上げています。全体の約三分の一で、設問も全10問中の4問です。

 あの読みにくい文章がさらに続くとしたら、受験生諸君はどうしますか。「飛ばし読み」を実践するかどうかはお任せいたします。ちなみに大問三題で解答時間は60分です。

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